漂白

 

 

物持ちがいい。保育園からセンター試験まで同じクラリーノの筆箱を使った。高校のときに買ったユニクロジーンズや中学生のときのエアリズムをいまも毎日着てる。機能不全を来すまで捨てる理由がないから。ずっと使(浸か)ってればそれが体に馴染んで、やがて身体の一部になり、心に溶け出して宗教になる。寿命が来たら、また同じものか上位互換が出ていて買えば戻ってくる。物、物ならね。それでいいんだ。難しいのは、物が生きていることがあって、小学生のとき、大切なお年玉をつかってデパートの屋上で小さなパキラの鉢植えを買って、それは自分で買った初めての物かもしれないのだけど、棚に置いて毎日眺めてお水を吸わせていた。かわいいな。あるとき、なぜか、窓からの風で棚の上のものが落ちてきて、それがパキラに当たって幹の真ん中からパキと折れてしまった。

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ぼくは、床を這いつくばって泣き叫んだ。両親が引いていた。でも、パキラは生きていたんだ それが死んでしまった、世界には、似たようなのはあっても、「あの」パキラはもう、未来永劫、いないんだ、僕の心の一部が僕の意思の外で突然なくなるということが、わけがわからなかったし、許せなかった。◆小5のとき、駒東の文化祭で金魚をすくって、生きていたのでバケツに入れた。そのうちかわいそうになって、42cmの水槽に入れてあげたら、横からみたら本当にかわいくて、大好きになって、そのとき始めたLINEやパズドラTwitterのハンドルネームを金魚にして、今だに一部の人から僕は金魚と呼ばれているのだが、中学に入るころには90cm水槽で泳がせてあげて、水草もいっぱい入れてあげて、一人暮らしする四畳半にも連れていって、結局最後の一匹は高2まで生きた。僕はもう彼らが死ぬときに泣き叫ぶようなことはしなくなったけど、大変なのは、むしろ生きているときだった。魚も音が聞こえるから、家の隣で工事をしているときとか、すごい音と振動が止まないのは僕は、理解できるからよかったけど金魚は本当にこわすぎて泣いているはずで、それがかわいそすぎて本当に苦しかった。これは僕のエゴかもしれないのだけど。◆中2のころ、実家が猫も飼い始めた。母が離婚後片付けを全くしないせいでただでさえ56平米の実家はそのうち文字どおり足の踏み場もなくなって、掃除機が壊れて衛生的にもひどくなり、そんな地べたをかわいい猫がガシャガシャ歩いていて、物を詰めすぎてドアを閉められない"お母さんの部屋"にネコが迷い込んだときはお母さんが(人はその部屋に入れないので)なす術なく名前を呼び続けていて本当につらかったし、無理やり首輪をつけて公園まで散歩に連れて行かれたときは僕が猫だったら本当にそれが嫌だと思って泣き叫んで食器を投げていたら母親に腹を蹴られた気がする。これはたぶん僕のエゴなんだけど。

ㅤㅤいま、ぼくには好きな女がいる。これはぼくに好きな女がいるという意味ではなく、好きだと言っても通報されない女がいるという意味である。これは本当に奇跡みたいにありがたい(意味がわからない(言語化を受けていないため))ことで、かわいい彼女がゴミみたいなことしか言えない僕を好きだと言ってどんなときも思いもよらない積極的受け容れをし続けてくれるのが本当に嬉しくて、もうぼくの精神衛生の半分ぐらいを預けてしまっているのだけど、でも、ぼくはずっと性交渉コンプレックスで来たから、セックスは本当に神聖で本質的な許容というか全存在を相手にあげる儀式だと本気で今でも思っているから、彼女が昔からだを売っていて初体験も知らない人で二千円できもいおじさんのを咥えたり飲んだり巨根を2時間挿れっぱなしにされて勘弁とかぼくと付き合っていたときもクラブで会った行きずりの男とハチャメチャにセックスしたとかたまにぼくも見ていたyoutuberと一晩で8回やったとか報告してくるたび、それを克明に想像して視界が泥色に澱んでそれが喉を詰めて胸まで降りてきて、内臓の配置を変えられたような最悪の気分になって、それを認識を知識に埋める自然なシステムのなかで何十回か何百回か繰り返して、だんだん楽になっていって、だんだん想像することが減っていって、でも忘れることは絶対にない。彼女が犯されることは僕が犯されることだから。これは僕のエゴでしかないのだけど。◆"いい""悪い"と言わず振れ幅をもって面白いと言う感受性を採用していると、世の中にはどうしようもなくかなしいことの方がどうしようもなく多いから、長い年月かけて、つらいことを受け容れる胃が風船みたいに伸びきってだぼだぼになっていて、もうずっと日々のことに何にも好きとか楽しいとか思わなくなったし、他人に自己を預けることにもひどく消極的になって、それがますます社会的孤立を加速さしてるような気がします

 

 

 

 

 

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